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東京オリンピックに向けて必要なのは「おもてなし」より「公共マナー」の強化

英語コラム

雑誌を読んでいたら、2020東京オリンピックに向けて強化すべきは、「おもてなし」ではなく「公共マナー」という記事を見つけました。なるほど、曖昧で分かりにくい日本流「おもてなし」よりも、諸外国では「当たり前」とされている公共マナーを徹底した方が日本のイメージアップに繋がるのではないかというものでした。

もちろん、日本は世界的に見てもマナーの良い国だと思います。街にはゴミが落ちていないし、トイレも清潔。大声を上げたり、モノを壊したりする人もほとんど見かけません。海外旅行から帰ってきて最初に感じるのが、空港のトイレのきれいさです。これには本当にホッとします。

人にぶつかったら「ごめんなさい」

海外から帰ってきて気になってしまうのが、赤の他人へのマナーの悪さ。駅などで誰かにぶつかっても無言で立ち去る人の多いこと。個人的な感覚では英語圏(アメリカ、カナダ、英国)では、誰かにぶつかったら確実に「excuse me」、「sorry」という言葉が出てきます。アメリカとカナダは特に、「おっと、ごめんよ」という感じのフレンドリーな「謝罪+笑顔」です。 

そもそも、ぶつからないようにお互い間合いを見計らって歩いているので、基本的にはぶつからないという方が正しいかもしれません。欧州もいろいろと歩きましたが、だいたい同じです。治安の問題もあるので、スリなど変な人がいないか気をつけて歩いているということもあるかもしれません。観光客の多いエリアはいろんな人がいますし、浮き足立っている人が多いので全般的にマナーが悪くなりがちでしたが、ぶつかったら「ごめんなさい」は、欧米では常識として通用するとおもいます。

日本の場合は、ぼんやり歩いたり、スマホを見ながら歩く人が多く、混雑している場所ではバッグや肩などに簡単にぶつかります。ぶつかられても、大半はなんとも思わないのではないでしょうか。バッグにぶつかられたらスリかも知れないと思う環境にいないことは幸運ですね。もしかすると、欧米での、ぶつかったら「ごめんなさい」は、「わたしはスリや強盗ではありません。不注意でぶつかっただけです」という意思表示なのかも知れません。

出る人が先、入る人は後。ドアは後ろの人のために押さえておく

電車の乗り降りでもよくアナウンスされていますが、電車に限らずビルや店舗などの出入り口でも必ず「出る人が先」です。これも英語圏では、ほぼ100%守られています。ニューヨークなど大都市の観光客が集まる場所では「え?出る人が先でしょ」と思うことがありますが、日本を含むアジアからの観光客の仕業であることが多いです。

自動ドアが普及している日本では、後ろの人のためにドアを押さえておくことはほとんどありませんが、こちらも大切なマナーです。ニューヨークで閉まりかけのドアの隙間に滑り込んだ若い女性(おそらく日本人)を見かけましたが、彼女のすぐ後ろにいた男性の目の前でドアがバタンと閉まりました。男性は呆れた時にするボディーランゲージ(rolled his eyes 目を上にぐるりと回して、shaked his head 頭を振って)をすると、自分でドアを開けて中へ入り、後ろから来た別の人のためにドアを押さえていました。 誰かの目の前でドアをバタンと閉めるのはとても失礼な行為です。知らず知らずのうちに失礼な行為をしているかもしれません。

ドアといえば、日本ではあまり見かけませんが、回転ドアは自分で動かすものです。最近では大型の自動回転ドアも見かけますが、古い建物に付いている回転ドアは自分で押して動かします。時々、回転ドアの中に立って動くのを待っている人がいますが、誰かが動かしてくれるのを待つものではありません。 

パーソナルスペースを十分に取る 

アジアの都市のように人口密度が高いとパーソナルスペースを取ることがなかなか難しくはありますが、順番待ちをしているときなどは適度にスペースを取ります。ときどき、ピッタリ後ろにくっついてくる人がいて驚きます。なんなら、背中を軽く押してくる人もいて、割り込み防止のために隙間を作らないようにしているのかもしれませんが、スリか変質者と思われるのでやめましょう。

日本で割り込みは最近減ったようにおもいますが、アメリカでは割り込みをする人がいると、列に並んでいる人たちがワーワー言って追い払うことがあります。わたしもバスに乗ろうと思って並んでいたら、割り込まれたことが何度かあります。そんな時は誰かが必ず「ちょっと、割り込まないで」と言ってくれるのですが、割り込み犯も負けじと「わたしはずっとここにいたわ」なんてシレッと言うんです。それで、大勢がワーワー言い始めて、「不正は許さん」みたいなことになって、割り込み犯人を追い出していました。正義が大好きなアメリカ人はちょっと疲れるんですけどね、なかなか自分一人では立ち向かうことが出来ないので助かります。

電車では妊婦さんやお年寄りに席を譲る 

これも当たり前すぎることですが、電車では優先席でなくても妊婦さんや赤ちゃんを連れたお母さん、お年寄り、怪我をしている人などに席を譲ります。

以前、女性には席を譲るようにしているというアメリカ人の男性がいました。理由を聞いたら、「見た目では分からないけれど、妊娠しているかもしれないから、席を譲るように親からいわれてる」そうです。ちょっと極端な例ですが、これはかなりちゃんとしたお家で育った人なのだなと好感を持ちました。私の知り合いにも妊娠初期に体調がすぐれないことが多く、つらいときはグリーン車に乗っていたという人がいますので、男性がみんな女性に席を譲るような世界になったら少子化にも歯止めがかかるかも知れませんよ、政治家の皆さん。

逆に小さい子供に席を譲っているのはあまり見たことがありません。ただ、スペースがあれば割と自由にさせて、他の乗客とも一緒に遊んだりします。嫌な顔をする人はほとんどいません。ニューヨークの地下鉄に乗っているとき、スーツケースを引いた旅行者のグループがいたのですが、お母さんと一緒に近くに座っていた3歳くらいの小さな女の子が、いつの間にかそのグループの若い女性に懐いてしまい、しばらく手を繋いで一緒に遊んでいました。若い女性はちょっと困った顔をしていましたが、彼女の連れのお友達も一緒に構ってあげていて、お母さんは少し申し訳なさそうに見守っていました。車両全体が和やかな雰囲気でした。

子供は泣くものだけれど

子供連れといえば、パリからブリュッセルへ向かう高速鉄道タリスで乗り合わせた家族連れには参りました。小さい男の子2人を連れた夫婦でしたが、お母さんは下の子(乳児)と、お父さんは上の子(3−4歳くらい)と一緒に4人向かい合わせの席に座りました。お母さんが下の子にかかりきりになっているところで、上の子が気を引きたくて、ママーママーと大声で叫ぶのですが、お母さんは完全に無視。お父さんに向かって「あんたちょっとなんとかしなさいよ」と言いたげな視線をチラリとやるも、お父さんは持参のゲームに夢中で気づかない(フリ?)。そのうちオモチャを手渡したら今度はそれをテーブルに叩きつけながら叫び出す始末。

お母さんの後ろの席でPCに向かっていたサラリーマン風のお兄さんが、「あの、ちょっと…」と言いかけたら、お母さんがキレて「ハア?うるさいわ」とシャットアウト。そして今度は旦那に怒鳴りはじめ、子供はさらに泣き叫ぶという惨事を2時間繰り広げられました。「子供は泣くもの」だけど、最悪な夫婦関係と荒んだ家庭の中を見せられたようでバツが悪かったです。近くの席の乗客と顔を見合わせて肩をすくめ、これってネグレクト?と思ったほどです。

公共の場での子供の泣き声が取りざたされていますが、子供の泣き声自体は不快なのではなく、こんなふうに家族の関係性が垣間見られるというか、夫婦関係の悪さ、特に夫の無関心と妻の夫に対する怒りみたいなものを見せつけられるのが苦しいです。母子だけの時はたいへんだなあと思って、見守るようにしています。欲しいものが手に入らなくてかんしゃくを起こすことを英語ではTantrum、感情が高ぶって処理出来なくて大泣きすることをmeltdownといいます。どちらもこの世界のルールに慣れて、成長していくために必要なプロセスなんですよね。

人としての思いやりと心の余裕 

今回紹介したものは海外旅行などに行った時にも役立つマナーです。というよりも、文明社会で生きていく人として最低限必要な基本マナーです。これらが出来ないことは、文明社会をまだよく知らない、何らかの事情により必要最低限の教育を受けていない、個人的に大きな問題を抱えていてそのことで頭がいっぱい(すぐに対応が必要な緊急事態)等の理由があると思われるものです。Better to doではなくEssential と考えましょう。 

1964年の東京オリンピックに際して、政府は公共マナーの向上を促進したそうです。東京に公衆トイレがたくさん作られたのも同時期で、その辺でする男性たちを減らすためだったと聞いたことがあります。ゴミのポイ捨てや痰を吐いたりしないようにと啓蒙活動が行われたのもオリンピックで多くの外国人を迎える時に恥をかきたくなかったからだったとか。そうやって外圧がかけられて少しずつマナーが良くなったのだそうです。電車でのマナーだって昔はひどかったそうです。列車の乗客のマナーの悪さを嘆く芥川龍之介の随筆を読んで、(映像で見た)インドか!と思ったことがあります。

マナーとはいえ、妊婦さんやお年寄りに対して、人としての思いやりが持てなくなるほど心の余裕を無くしているなら、それは何かを変える必要があるというサインです。東京の倍近く人口密度の高いニューヨークに住む人たちにできることが出来ないのは、人口が多いせいではありませんよね。社会のあり方の何かが大きく間違っているのかも知れません。 

Gothamistというニューヨークのメディアで紹介された動画です。妊娠中の同僚が地下鉄に乗った様子を隠し撮りしたら、ニューヨーカーたちはどんな反応をしたのでしょうか?

 

 

 

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